『思想の中の数学的構造』

山下正男 著
ちくま学芸文庫
ISBN4-480-09018-5
思想史上における数学と関連した要素についていくつかのことが書かれた小論集。
主題として著者が何をいおうとしたのか、ということは私にはさっぱり分からなかったが、一応形としてはそれなりのエッセイだろうから、読み物として楽しめる人には面白い読み物かもしれない。
私が知っている範囲でいうと、歴史民俗学の本にありがちな、自分が調べた限りの知識をだだだーっと積み込んだ、主知主義的、衒学的な博識強覧という感じの本。歴史民俗学のこの手の本には私にも面白いものもあったので、本書も、面白いと思える人には面白い本なのではないだろうか。
私としては薦めるような本ではないが、これで良いという人なら読んでみても、という本だろう。
例えば、親族構成の中に群構造があるとして、だからどうだ、という話がないと、それだけでは何が面白いのか私にはよく分からなかった。
以下メモ。
・古代階級社会の中を生きたプラトンピタゴラスにとっては、宇宙の構成要素に階層があることは極めて自然なことであり、そのような階層を秩序付ける各要素間の比こそは、宇宙の秩序を成り立たせるものだった。だから、ギリシャ語、ラテン語で比を示す言葉は理性を意味する logos,ratio であり、比で現すことのできる数が有理数、比で現すことができない数が無理数と訳される。
・原子論的な発想は、個人を析出することのない社会からはでてこないであろう。数学において原子論的な発想を突き詰めたのが、集合論である。