『漢字伝来』

大島正二
岩波新書
ISBN4-00-431031-8
古代日本における漢字の受容史について書かれた本。
トータルでみて、私には何だがよく分からない本ではあったが、漢字の受容史を綴った本だといえば、そういうものか。
ただの通史とはいえ全体的に何をいわんとしているのかはよく分からなかったし、個々の部分でも、説明が足りていなくて分かり難い箇所や、私には訳が分からなかった箇所が結構あり(僧の訓がホウシだったとか儒の訓はハカセだったいう話とか。対応する日本語がない場合に中国語の音がそのまま訓になる例、には違いなかろうが)、後、日本書紀の話を引くのに、西暦を表示して、あまつさえ、それを金石文の年号と対比させるのはミスリードだろう、とか、『日本書紀の謎を追う』を引いておきながら、その内容については全くこれを無視しているのは何だかよく分からない、とか、私にはどうもよく分からない本であった。
だから、私は余り良い本だと思わないので、別に本書は薦めない。一つの通史といえば通史かもしれないので、本書のような記述で分かる人には、良いのかもしれない。
全体的には、特別薦めるような本でもないだろう。
以下メモ。
長屋王家跡から発掘された木簡に、鰯という国字が使われていた。鰯は、後に中国でも使われるようになっている。
・中国でも江南地方の方言を呉音と呼んでいた。日本で呉音とされる字音の具体的な表記は、多く江戸時代末期の学者の説、中でも、太田全斎の『漢呉音図』(1815)が主な根拠になっているらしい。
・万葉仮名で、馬声がイ、蜂音がブ、と読まれているが、昔の日本語にはンの音はなく、ハ行の音はf音だったので、イが馬の鳴き声に近かったのだろう。