『特攻とは何か』

森史朗 著
文春新書
ISBN4-16-660515-1
神風特攻隊についてのノンフィクション読み物。
大体のところ、割と普通のノンフィクション読み物で、ノンフィクションとして、まずまず、という本ではないだろうか。
(特攻隊に)選ばれた側ではなくて、選んだ側の論理を追う、ということをモチーフに執筆されたもののようだが、確かに、特攻の創始者である大西瀧次郎海軍中将を一つの軸に、特攻を追った本ではあるものの、特攻隊を描いたノンフィクション読み物としては、現実問題としてはどうしても実際に特攻した、選ばれた側の物語、が中心となってしまう訳で、選んだ側の論理が積極的に分析されているのでもなく、選んだ側の論理を追う、ということは、味付け以上のものにはなっていないとは思う。
豊田副武海軍大将の自伝に「しかしまだ、組織的に特攻々撃を命ずるというような空気にはなっていなかった」と記されており、同書には、大西中将の言として、「どうしても体当たりで行くより外に方法はないと思う、しかしこれは上級の者から強制命令でやれということはどうしても言えぬ。そういう空気になって来なくでは実行できない」とあって、つまりは、特攻はそういう空気が出来上がったので行われた、ということなのだろうが、山本七平の愛読者でもないと、それならば何をかいわんや、よく了解した、とはならないのではないだろうか。
従って、タイトルになっているような特攻とは何か、が目当てでは、やや辛い、というところだが、味付けとしては、選んだ側の論理を追うことで一冊の本が引き締まって良くなっている感はあり、ノンフィクションとして、まずまずの本になっていると思う。
興味があるならば、購読しても良い本だろう。
以下メモ。
・神風特攻隊が組織されたそもそもの起こりは、栗田艦隊のレイテ湾突入を支援するためだったが、指揮官としては、米軍に対して圧倒的に保有兵力が劣る中では、多少でも戦果を上げるにはそれより他に方策がなかった。
(実際、後に特攻に対して敢然と反対論を唱えた美濃部正大尉は、夜間、レーダーに映らない超低空から侵入して攻撃する夜間戦闘で戦果を上げていた。ちなみに、「美濃部少佐(昇進)」と書いてあるのは訳が分からない。美濃部少佐は、後に芙蓉部隊の隊長として沖縄戦において特攻に反対するが、それ以前に、フィリピンにおいて大西中将に特攻反対論を述べていたらしく、本書で紹介されているのはこちらのエピソードだけである)
・初回の特攻隊が奇襲による体当たり攻撃によって戦果を上げたことで、特攻作戦は拡大され、特攻は、非常時の特別攻撃から、日常の攻撃風景へと変化した。
・大西中将にとって、特攻という考え方は、後に、一億玉砕の徹底抗戦論という戦略的な発想に結び付いた。