『神になった人びと 日本人にとって「靖国の神」とは何か』

小松和彦
光文社知恵の森文庫
ISBN4-334-78432-1
神として祀られた人々に関して書かれた読み物。
半分は、人を祀った神社仏閣に関する雑学本、半分は、人を神として祀るという日本人の習俗に関してのエッセイ的論考だが、文庫化に際して後者のウェイトを増やした結果か、この両者が殆ど二極化して分裂してしまっており、全体として、中途半端で虻蜂取らずな感じのする本ではあった。
単なる雑学本ではしょうがないといえばしょうがないだろうから、論考を追加しようという方向性は、机上計算としては分からなくはないものの、実際にはそれで論考中心の書に生まれ変わるはずもなく、結果的には、ただバランスが崩れただけで終わってしまったのではないだろうか。
人を祀った様々な事例を見ていく中で、そこから共通点を取り出して、論述していく、という形を取れるのならば良かったのだろうが、そういう形には殆ど全くなっておらず、雑学部分は雑学部分で、様々な事例の(しかも分量的に当然薄っぺらな)寄せ集めに過ぎないし、論考部分は論考部分で、書かれている事例をベースにした議論をしている訳では必ずしもなく、一冊の本としてのまとまりに欠けると思う。
それなりに面白い部分もあったし、特別に悪いという程ではないので、単なる雑学本で割り切れるのならば、興味があるのなら読んでみても、というところなのだろうが、余り成功した本だとはいえないだろう。
つまり結論は、解説の梅原猛氏が遠回しに奥歯に物が挟まったような口調で多分いっているように、次回作に期待、ということではないだろうか。
メモ1点。
・古来、日本人は怨霊を鎮めるために人を神として祀ってきたが、とりわけ近代以降は、その人を顕彰し、長く記憶に留めるため、神として祀るようになっており、それは、機能的には記念館を設立することとそんなに変わらない。