『記憶と情動の脳科学 「忘れにくい記憶」の作られ方』

ジェームズ・L・マッガウ 著 大石高生/久保田競 訳
講談社ブルーバックス
ISBN4-06-257514-0
情動をかきたてられるような経験程、よく記憶される、ということが書かれた科学啓蒙書。
記憶全般についてというよりは、長期記憶の固定化がどのような場合に促進されるのか、ということが記されたもので、主要部分としては、研究史にそって、長期記憶の固定化に関して、これこれの実験によってこういうことが分かった、ということが書き連ねられたもの、と考えれば間違いがない。
記憶に関する仮説とその根拠となる実験とが巧く折り重なって書かれているので、興味深く、啓蒙書として良い本ではないかと思う。
212pに書かれている結論が、書かれている実験結果からだけではっきりそういえるものではないように思うので、すべて台無し、という気がしないでもないが、そういう批判ができるのも、根拠となる実験がいちいち書かれているから、ではある。
その他に、問題点としては、研究史にそって仮説と実験とを書き連ねるのは、概説書としてはややまどろっこしいかもしれない。
このような問題点はあるものの、基本的には、どのような実験によってどういうことが分かったのか、が解説されていて、興味深く、良い本だと思う。
興味があるのならば、お薦めしたい。
以下メモ。
扁桃体ノルアドレナリンによる刺激が、他の脳部位に影響を与えて、記憶の固定化を調節している。
・強いストレスによって副腎から放出されるアドレナリンは、迷走神経を興奮させ、その刺激は孤束核を経て扁桃体に伝わり、ノルアドレナリンを放出させる。
強いストレスを受けるような出来事の経験は、少なくとも一部このような経路によって、よく記憶される。
・男性の場合、右の扁桃体の活動が高かった程、よく記憶し、女性の場合、左の扁桃体の活動が高かった程、よく記憶した。