『大山康晴の晩節』

河口俊彦
新潮文庫
ISBN4-10-126513-5
大山康晴について書かれた将棋読み物。
ややまとまりに欠ける面がなくはないが、大体のところ、大山康晴論、と考えて良い本だと思う。
その大山康晴論を、実際に大山が指した将棋の棋譜を使って(棋士論だから当たり前といえば当たり前だが)、対戦相手との駆け引きや心理面を解釈しながら、大山がどのように強かったのか説明して、論じている点が興味深く、他にも様々なエピソードが書かれていて、私にはとても面白い本だった。
興味があるのなら、お薦めしたい。
問題点としては、エピソードがいろいろと詰め込まれているために、特に序盤から中盤にかけて、かえって総花的で拡散的なものになっている、というきらいがなくはない。後は、棋譜を使った解説といっても、所詮は他人による解釈だから、本当は全然違うことをいっているのかもしれない。
棋面も出てくるのでもちろん将棋を知っていて、升田幸三とか芹沢博文とかを、せめて名前くらいは聞いたことのある人向け。戦法もいくらかは古めかしいので、本書に合う層は狭いかもしれない。
しかし、升田が朝日寄りで大山が毎日だった、とかいうのは、名人戦が朝日か毎日かで揉めている今読むと更に楽しめる訳で、多少の前提知識があれば、面白い本だと思う。
私には面白かったし、興味があれば、良い本だろう。