『スペイン巡礼史 「地の果ての聖地」を辿る』

関哲行
講談社現代新書
ISBN4-06-149820-7
サンティアゴ巡礼に関していくつかのことが書かれた本。
ヨーロッパ中世に盛んになった、スペイン北西部にある聖地(聖ヤコブの遺骸があるとされる)サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼について、いろいろと書かれた雑学本的な概説書。
いくつか欠点があり、特に、神話的伝承と史実の区別をはっきりさせようとしていない点は、私としては致命的に思えるので、薦めることはしないが、そういったものでも良いというのであれば、読んでみても、という本か。
中世社会の一つの面を描いた本として、興味があるのならば、そう悪い本ではないかもしれない。
欠点としては、その他、これといったテーマがなくまとまりがないこと、神話と史実の区別が明瞭でないことを含めて、全体に、説明が、明快で直截的なものではないような気がすること、が挙げられる(例えば、地中海世界では古くから、貝殻は再生と誕生の象徴だった、といわれても、分かり難いのではないだろうか。多分要するに、貝殻は女性器の象徴なのだろう)。
こうした欠点があるので、私は良い本だとは思わない。特別悪いということもないので、どうしても読みたいというのであれば、読んでみても良いかもしれないが、特に、という程ではないだろう。
以下メモ。
プロテスタントが巡礼を認めなかったことや、カトリック内部でも、世俗化した巡礼に対する批判や、マリア信仰が盛んになることで、16世紀以降、サンティアゴ巡礼は衰微した。
・病気が神によって引き起こされると考えられた中世にあっては、巡礼者の中には病人も多かったが、巡礼路には教会や支配層等によって無料の施療院が建てられ、またイスラム医学や、巡礼に伴って各地の医療情報が集まることで、巡礼路は、当時の社会においては、実際に病気の快復が見込める場所となった。