『日本を滅ぼす教育論議』

岡本薫 著
講談社現代新書
ISBN4-06-149826-6
巷にある教育論議を批判した本。
社会科学的経営学的観点から、巷にあふれる俗流の教育論をあれこれと批判して、その欠点を体系的に捉えようとしたもの。
私としては、こういった社会科学系の話は好きだし、著者の意見にも十分共感できたので、結構楽しめた。やや今更な部分もあったが、基本的には良い本ではないかと思う。
興味があるならば、購読して良い本だとしておきたい。
問題点は二つ。
一つは、著者は、日本の教育論議には現状を正しく認識しようとしたものではない論が広く見られると批判しているが、では著者が現状を正しく認識しようとしているのか、というと、そうではないという批判が、少なくとも十分にあり得るのではないかと思われること(書かれていない部分できっちりできているのかもしれないが。しかし例えば、終身雇用の慣行は既に崩れている、という言説は結構あやういと思う)。また、別の話として、本書で著者が批判しているような教育論が批判に値する教育論であるのかどうか、という現状認識についても、正しいかどうかが問われても良いかもしれない。
もう一つは、批判というのも何もないところから出せるものでもなく、本書では、良くいえば社会科学的な立場から批判がなされている訳だが、それは即ち、西洋近代合理主義的な立場からの批判であり、つまり悪くいえば、欧米に比べて日本は遅れている、という批判でしかないこと。著者は、日本は遅れているのだから仕方がないというかもしれないが、丸山真男の時代ならともかく、現代の書としては、もう少し他のあり様があるのではないかという気がする。
が、気がするだけかもしれないので、こんなものなのかもしれず、基本的には楽しめる本ではないかと思う。
興味があるならば、購読して良い本だろう。
メモ1点。
・西欧や北米の多くの国では、子供たちが学びたいことを学ばせる、という理想主義的な教育理念が、条件整備が追い付かず教師の逃げ口上に使われたために、かつて大きな学力低下をもたらした。