『妖精のアイルランド 「取り替え子(チェンジリング)」の文学史』

下楠昌哉
平凡社新書
ISBN4-582-85286-6
アイルランド民話がアイルランド人文学者に与えた影響について書かれた本。
内容的には、アイルランドにおいて大英帝国からの独立、自治獲得を目指す民族主義的運動が盛んになっていた19世紀末から20世紀初頭にかけての、アイルランドに出自を持つ文学者たちの作品に、アイルランドの民話や古い共同体において、急に亡くなったり、共同体にそぐわない人物がそれに成り代わったとされてきた妖精「取り替え子(チェンジリング)」というモチーフが、いかなる痕跡を残したか、ということを探ったもの。
著者の主観的には、もう少し違ったモチーフがありそうではあるが、それは私にはよく分からなかったし、私が期待したような歴史民俗学的な部分も多くなく、大体においては、文学読み物、と考えておけば良い本ではないかと思う。
文学を読んでいない私が文学読み物を読んでも楽しめるはずはなく、私には別にどうということもない本であったが、ブラム・ストーカーやオスカー・ワイルドラフカディオ・ハーンジェイムズ・ジョイス等を読んだことがある人には、多分それなりの本なのではないだろうか。
全体的に地に足のついた実証ではなく、「ケルトという概念」とか、「想像力のネットワーク」とかの、分かったような分からないような言葉で論旨をけむにまいている印象があるにはあるが、文学読み物はこんなものではあるかもしれない。
文学読み物で良ければ、読んでみても、という本ではないだろうか。