『日本はなぜ諍いの多い国になったのか 「マナー神経症」の時代』

森真一 著
中公新書ラクレ
ISBN4-12-150184-5
現代日本人の対人行動に関していくつかのことが書かれた社会評論。
第2章と第3章のみは明らかなテーマ上の繋がりがあるが、それ以外の部分では、余り統一的なテーマや問題設定を、私は見出せなかった。結構ばらばらでちくはぐな印象の本。にもかかわらず、全体に関連があるかのように記述がなされている点が、気持ちの悪い本ではあった。
著者はおそらく、全体がマナーに関して論じているのだから関連がある、といいたいのだろうが、一冊の本の基軸となれるような統一感は、ないと思う。
完全にばらばらなコラムの寄せ集めであったならば、それなりの社会評論であるのかもしれないが、無理に繋がりを演出している点が、マイナスポイント。はっきりと繋がりのある第2章と第3章を後半に持ってくれば印象は違ったような気もするが、これを最初に消費してしまうのも、その後の部分の印象を悪くしている要因ではないだろうか。
個々の部分には面白い指摘もなくもないが、全体として、一冊の本の作り方としては、失敗しているというべきだろうと私には思われる。
尚、内容に関しても少し批判しておくと、マナーの変化要因として論じられているものが、真に中心的な要因であるのか、それとも必要条件の一つであるのか、きっちりとした腑分けができていないように思う。ひきこもりを受験社会に関連付けているのは、両者が問題になった時期を考えれば、それだけでは明らかに真の要因とは認められないし、成人式が近年荒れることについても、より中心的な要因となるはずの、成人式が大学生主体のものになって落ちこぼれ組の居場所がなくなった、ということが、議論の中心にはなっていない。
こんなものだと割り切ればそれなりの本ではあるかもしれないが、お薦めにする程ではないだろう。
以下、メモ。
・集団内部にいたままで集団外部の人間と繋がることができる携帯電話は、集団を不安定にさせる。
・キャラを作って行う人間関係は、家族や仲間集団といった全人格的なゲマインシャフトが、楽しさの共有という利益に基づいたゲゼルシャフトになってきていることに対応したものだ。