『労働政治 戦後政治のなかの労働組合』

久米郁男 著
中公新書
ISBN4-12-101797-8
利益団体としての労働組合と政治との関りについて書かれた本。
話としては、70年代から80年代にかけての日本の民間労組は経済合理性に立脚し、全体のパイを大きくしてその分け前にあずかろうという方針の下、中曽根行革を支持するなどの活動を行ってきたが、自らの活動の成功によって労働戦線の統一組織・連合を産み出した際に、拙速に統一を進める余り経済合理主義をその中心原理として設定することを怠ったため、90年代の連合は、橋本行革に寧ろ反対の姿勢を取る等、経済合理性よりも個々の労組の特殊権益が優先されるようになっている、ということが書かれたもの。
ただし、テーマ的な流れはこのようにかなりはっきりとしているものの、全体的な構成としては、相当にまどろっこしくて明快さを欠き、絞り切れていないような奥歯にものが挟まったような、何がしたかったのかよく分からない印象を受ける本ではある。
否、分からないといっても、テーマははっきりしている訳ではあるが。しかし、全体の構成というか配置というかレトリックというか、著者が何をいうために、何を説明し、何を検証し、何を論証するのか、ということが、適切に考慮されていないように思われる。
個人的には内容はそれなりに面白かったので、興味があるならば読んでみても良い本だとしておきたいが、積極的には薦めかねるものがある。
後、経済合理性などの言葉から窺えるように、本書の議論は結構新古典派経済学寄りで、反対の立場の人には説得力があるようには見えないのではないかという気がするが、どうなのだろう。
メモ1点。
労働組合が労働コストの上昇によるインフレを回避するために賃上げの抑制を行う場合、労働組合はマクロ経済運営について政府と交渉する必要が生じる。