『日本の伝統』

岡本太郎
光文社知恵の森文庫
ISBN4-334-78356-2
伝統芸術に関して書かれた本。
別々に発表したいくつかの論をまとめたもの、ということで、必ずしも全体がきっちり統一されている訳ではなく、縄文土器尾形光琳、日本庭園についての各論と、伝統芸術論、芸術論とが微妙に合わさったような内容の本。
重複もあるし若干古い感じも受けるので、全体としては、縄文土器や、尾形光琳、日本庭園について関心のある人向け、といったところの本だが、最初の第一章は、広く一読の価値があると思う。平均するとやや微妙にはなるが、一応はお薦めにして良い本だとしておきたい。
最終的にすべてを自己に帰着させる著者の伝統芸術論は、論理として、圧倒的な迫力があるし(その分、幻惑されるおそれもなしとはしないが)、芸術家の矜恃というのはかくあるのか、という感じで、かなり面白かった。伝統のために現在があるのではなく現在のために伝統があるのだ。
また、芸術は爆発だ、というのが、岡本太郎の芸術観を巧みに要約したものなのだ、ということが分かった点も、私には面白かった。あれはただのおちゃらけたキャッチコピーではなかったらしい。
著者の芸術論を知るためになら、伝統芸術について語っている本書よりも他の本の方が良いかもしれないし、岡本太郎がこう書いている、と言った場合に、ピカソゴッホならともかくネームバリューとしてどんなものか、というせせこましい疑念もない訳ではないが、本書を凄いと感じるか、そうでなくとも、少なくとも、かつては凄かったのだろう、ということが分かる本ではあると思う。
ちょっと引用。
「それが現実であり、日本現代文化の姿であるならば、全面的におのれに引きうけなければならない。ツバをひっかけただけで通りすぎるとはもってのほかです」(p63)
「芸術における空間とは、まったく空気を抜いた絶望的な真空、虚であるか、でなければぎっしりと、みじんの隙もなくつまったものである、と私は信じるのです」(p112)
「このせまい文化圏の中で、一系の天皇家が百何十代もつづいたなどということも、けっして自慢にはならない。絶対的無気力の象徴としか思えないのです」(p225)