『古代中国の文明観 儒家・墨家・道家の論争』

浅野裕一
岩波新書
ISBN4-00-430944-1
環境問題に対して古代中国思想がどのような考えを持っていたか、が述べられた本。
簡単にいえば、儒家は自然界の生産力を楽観的に信頼し、墨家は生産力の限界を認めて節約を訴え、道家は自然破壊をもたらすような文明そのものを否定した、というところで、ただし、それ以上の内容は、ない。
こうしたもので良いというのなら、読んでみても良いのかもしれないが、個人的には、ただそれだけかよ、とは思った。こうした古代中国の思想を現代の環境問題にいかに応用するか、というのが最大のテーマになるはずなのに、それについて何の展開もないままに一冊本を書かれても、という感じか。そんな簡単に解決策が見つかるはずもないだろうし、ヒントにはなるかもしれないから、どうしても読んでおきたい、という人には良いのかもしれないが。
基本的には、もう少し何か内容が欲しい、という本だと私は思う。
ちなみに、『荘子』が墨子に対して「其の行いは為し難き」と批判しているのは、現代の目からみると、お前が言うな、という感じだが、文明の否定といってもその程度のことだったのだろうか。
メモ1点。
・文明を肯定する儒家墨家には、文明の発生はあっても、それ以前の宇宙生成論はない。これに対して、占星術を行った周の史官たちの思想をその源淵の一つにしたと考えられる道家は、文明発生以前の宇宙生成論を持ち、そこからの相対で、文明を批判した(ただし、『荘子』には宇宙生成論はない)。