『明治デモクラシー』

坂野潤治
岩波新書
ISBN4-00-430939-5
主に、明治時代の民主主義陣営の動向に関するスケッチ。
つまるところ何がいいたいのか、という明快なテーマは殆どなく、スケッチという以外にはない、なんだかよく分からない本ではあって、それは本書の大きな欠点ではあるが、その分、歴史ものだと割り切れば、無難に読めなくはない、という本。強く薦めるのではないが、歴史もので良いという人や、本書をヒントに日本の民主主義について考えたいという人には、それなりの本ではあるかもしれない。
明治時代の民主主義の考え方には二つの潮流があって、一つは議会を民主主義の拠り所とする植木枝盛中江兆民らのルソー主義的な考え、もう一つはイギリス風の議院内閣制を目指した福沢諭吉らの考えであり、大正デモクラシー期における、北一輝社会主義植木枝盛中江兆民に近く、美濃部達吉福沢諭吉に近い、というのが、一応はテーマだといえなくもないが、それが最もいいたかったことだということはないだろう。
国会を開設して薩長藩閥による行政府に抵抗しようとした中江兆民らの考えは、55年体制における旧社会党のような何にでも反対する野党の存在理由を証している、旧社会党万歳! とでも主張するならば、それはそれで明確なテーマにはなるだろうが、(心情的にはおそらくそういいたかったのだろうものの)さすがにそこまで強弁するのでもない、というのが、弱いところか。北一輝社会主義に対しても、北は社会主義によってすべての国民が平等に豊かになるとしているが、現実はそうはならなかった、と書いたのでは、誠実ではあるとしても、北を評価しているんだが否定しているんだが、何だかよく分からない、という感じになってしまうのも、むべなるかなではあろう。
ただ、歴史ものとしてはそれなりだろうから、読んでみる手もあるかもしれない。
メモ1点。
大日本帝国憲法の下では、官吏の任免や俸給を決定するのは天皇の大権とされており、且つ、第67条の規定によって、大権に基づく既定の歳出は議会が勝手に削除することができなかった。