『寺社勢力の中世 無縁・有縁・移民』

伊藤正敏
ちくま新書
ISBN978-4-480-06435-6
中世寺社勢力に関して書かれた本。
全体的に、やや総花っぽい総合概説、といった感じの本で、私は余り好きになれるタイプの本(著者)ではないと思ったが、それでもそれなりに面白かったので、好きになれる人には多分もっと面白いのだろうから、興味があるならば読んでみても良い本だと思う。
中世日本史を鬼門とする私の感想なので、どこまで敷衍できるのか定かではないが。
好きになれるタイプの著者ではないというのは、一つは、本書には中世はどうだったのかというその事象は書かれていても、何故そうだったのかという因果関係の記述は弱いものしかないから(多分、本書が、というよりは、著者自身がそういう説明方式を好まないのだと思う)。例えば、中世の京は平安京よりも東に片寄っていた、という事象は書かれているが、何故そうなったのかということは考えられていないし、因果関係の記述がある部分でも、本書のメインテーマであるところの中世寺社勢力の基盤である無縁について、それは古代王朝国家の秕政が生んだのだ、とするのでは、私には十全な説得力のある説明だとは思えなかった(そもそも、本書の一番最初の書き出しの議論から行けば、中世人は、古代人のようには王に対する神威は認めなかったが、神仏(寺社)に対する神威は認めていたから、無縁所が力を持てたのだ、という話に行かないのだろうか)。
もう一つは、そうした点も含めて、私には、著者は無縁を理想的に見すぎているように思われ、私と著者とは政治的な立ち位置がどこか違うような気がする。
これらのことから、私としては、本書は余り好きになれる本ではなかった。
ただ、それでもそれなりに面白かったので、悪い本ではないだろうし、好きになれる人にはもっと面白いのだろうから、読んでみても良い本だと思う。
興味があるならば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
・中世の京は平安京のあった位置よりも東に片寄っており、平安京のあった辺りの西半分が「洛中」、それより東は「洛外」等と呼ばれた。洛中は、大きな空き地である二条大路を境に、北を上京、南を下京という。洛外は、北から、白河、祇園社領(延暦寺末寺)、清水寺領(興福寺末寺)、六波羅法住寺殿、といった地区からなっていた。
流入した人口増大による疫病の流行が中世祇園社への信仰の基だが、祇園社境内にある鴨河原には多くの流人が住み着いており、そこは疫病の発生源でもあった。
鎌倉時代、寺社勢力の神威の下にできた境内都市は、やがて自治組織が発達し、室町時代には自治都市へと変化していった。