『教育と選抜の社会史』

天野郁夫 著
ちくま学芸文庫
ISBN4-480-08966-7
産業社会においては不可避的に学歴社会化が進むという観点から、日本の学歴社会成立の歴史を追った本。
内容的には、多分、良質の社会科学系の書なのだろう。読みたいという人ならば読んでみても、という本か。
ただし、私としては多少引っ掛かる部分があるので、一般向けにお薦めするには、二の足を踏む。一つには、無駄に難しいという気がすること。もう一つは、本書のような歴史の流れを大上段から捕らえようとした議論は、えてして危ないものである、と思うこと。本書のような議論をあやういと感じる程には、私が歴史主義に侵されている、ということが分かった。
否、歴史の法則について語っているような本は、本書も含めて、私は大好きなのだが。しかし、20年以上前の本で、軽く読み飛ばせるものではなく無駄に難しいとなると、私なら、読みたいと思うかどうかは結構微妙なところだと思う。
無駄に難しい、というのは、はっきりどこがどうということではないが、頭にすんなり入ってこない感じがする。例えば、「このいわば教育的選抜の過程にとり込まれた職業的選抜の及ぼす影響は、資格職業の場合よりも、学歴が擬似職業資格的な性格しかもたない企業の職員層の場合に、いっそう深刻である」というような。どこがどうおかしいということはないが、やっぱり無駄に難しいという気がするのだが、どうなのだろう。私が用語に慣れていないだけなのだろうか。
(ちなみに、「いっそう深刻」なのは、何がどう深刻なのか、書かれてはいない。意味としては、要するに、医者のようにどこの大学であれ医学部を出て国家試験に通ればなれる職業とは違って、一流企業に入社するにはより良い大学を卒業しなければならないから、より良い大学を目指して受験戦争が深刻化するのだ、ということだろう)
それなりに面白い本だとは思うが、難しいのを無理に読む程ではないのではなかろうか。それでも良ければ、というところだろう。
以下メモ。
・近代セクターが西洋から移入された日本では、できたばかりの企業は、人材の供給元を同じ近代セクターである近代公教育に頼らざるをえなかったが、希少な資源を官僚機構とも取り合った結果、より良い公教育を受けてきた者(より良い大学を出た者)にはより良い条件が示されることとなって、公教育の中に元々あった高等教育機関間の格差が、大きく増幅された。
・試験において高い得点を取ることができるような文化的な枠組みや価値観を持つものが、学歴社会において有利に働いていることは考えられる。