木綿のハンカチーフ http://d.hatena.ne.jp/sujaku/20040428#p3

木綿のハンカチーフのキモは、三番での恋人の豹変っぷりにこそあると思う。都会に出たことで都会人を気取り、元恋人の田舎振りを嘲笑する態度。
恋人は何故帰れないのだろうか。都会の何が愉快なのだろう。
カルメン』を補助線に、この歌を考えることができるだろう。きらびやかな都会の女性カルメンと、カルメンに恋焦がれる田舎者のドン・ホセ、さらに彼が田舎に残してきた許嫁ミカエラ木綿のハンカチーフは、ミカエラが歌うドン・ホセの物語である。
ドン・ホセは何故帰れないのか。見事に都会の絵の具に染まったこの若者の情熱を支えているものとしては、恋愛を先ず第一に考えるべきだろう。ドン・ホセは都会でカルメンを見つけた、と考えるのは、そう突飛なことでもないはずである。
本物のカルメンを手に入れた人が、木綿のハンカチーフを歌うことはないだろう(悪女であるカルメンの、本物とは何か、ということは措く)。木綿のハンカチーフを歌うのは、カルメンだと思っていたものがカルメンではなかった人、カルメンを手に入れられなかった人であり、カルメンを失ったドン・ホセが、田舎にいるはずの幻想のミカエラを歌うのである。
都会の魅力とは、都会的で洗練された異性の魅力であり、都会の愉しみとは、因襲的な田舎とは異なる、とりわけセックスに関して緩い男女関係の愉しみに他なるまい。
近頃の若い人には、東京への憧れは昔ほど強くないという。
ファッション情報が行き渡り、性規範が十分に崩れてしまった現代の田舎においては、都会の持つ魅力はそう大きくはないのではなかろうか。