『大学という病 東大紛擾と教授群像』

竹内洋
中公文庫
ISBN978-4-12-204887-4
主として、東京帝国大学経済学部における派閥闘争の歴史が描かれた本。
人文系のうだうだした議論が全くない訳ではないし、大学の病という本書全体を通してのテーマ設定は確かにあるらしく(別に派閥争いが大学の病だといっているのではない)、私にはそこは読み取れなかったし、そのせいか最終章等はいささか説教臭く感じられたのだが、大体のところは、派閥争いの歴史を素描した本、と考えてそれ程間違いのない本だと思う。
いろいろドラマもあって面白いので、興味があるならば、読んでみても良いのではないだろうか。
戦後の一時期、東大経済学部よりも大阪大学経済学部の方が上だった、という話は聞き知っていたが、その理由は本書を読むまで知らなかったので、私には面白く読めた(派閥争いによって有能な人材が放出された、というだけのことだが)。
テーマであるらしい、大学という病、というのは、私にはそこは読み取れなかったのでよく分からないが、敢えて言えば、大学の学問が社会の役に立たなくなること(あるいは見方を変えれば、大学の学問がそもそも社会に必要とされること、だが、著者は余りそういう視点は持っていなさそうだ)というところなのだろうか。
余りこうしたテーマ設定が巧く行っているとは思えないが、派閥争いの歴史を描いた本として読め、そういう面白さもあるので、そうしたもので良ければ、読んでみても良い本ではないだろうか。
興味があるならば、読んでみても良い本だろう。
以下メモ。
・昔の大学の授業は、講義の内容をノートに書き写すだけのものであり、大学の成績も、どれだけ試験勉強をしてそれを覚えるかに、かかっていた。
(日本における大学学問の基本は、逸早く欧米の最新研究を咀嚼紹介すること、だから、これはこれで適合的な訳である。文明開化期ならばともかく、時代が進めば進む程、このような日本の大学学問のあり様は社会の要請と乖離していくことになるだろうが、著者が大学の病としてこれを考えているかどうかは、明らかではない)
蓑田胸喜に代表される国粋主義運動によって、京都帝大法学部の滝川幸辰教授と、東京帝大経済学部の河合栄治郎教授らが追放されるが、その背後には、文官を多く出し、より国家の中枢に近い東京帝大法学部だけは守ろうということがあったのだろう。