『日本の神話・伝説を読む 声から文字へ』

佐佐木隆 著
岩波新書
ISBN978-4-00-431078-5
口承文学のあり方という視点から、記紀等に見える伝承のいくつかを解釈した本。
口承文学のあり方、というのは、一文でいえば、言葉の持つ意味の広がりや近い意味の言葉、近い音韻を持つ言葉等の豊かな連想から、ストーリーが重複されていく、といったものであり、例えば、クシには酒という意味もあるので、スサノオクシナダ姫を救う時に、八俣のオロチに酒を飲ませて退治したのだ、というようなことがあれこれと書かれている。
いくつかの伝承について書かれた、ややとりとめのない雑学本っぽい感じの本ではあるが、そうしたもので良ければ、読んでみても良い本か。私はこういったものは好きなので楽しめたし、割と面白い本ではないかと思う。
「『古事記』は日本に現存する最も古い書物である」とか、さらっと断言してしまうのはどうかというような部分もあるが、多分、特に問題とする程でもないだろう。
興味があるならば、読んでみても良い本だと思う。
以下メモ。
・口承時代の伝承では、固有名詞が話の内容を示していることがよくある(メモの最後の例を参照)。
・輝くは、古くはカカヤクだった。
・西の方に国は見えない、といって死んだ仲哀天皇は、途中までは降りてきたオシホミミノ命と同様に、国見の失敗を示している。
・鏡は影見のことだとされるが、雨音、酒樽、風向き、船乗り、胸元、目蓋、のように、eの音が複合語の時にaの音になる言葉は、aの音の形が古く、複合語の場合に古い形が残ったと考えられている。
雄略天皇によって殺されたオシハノミコの子供のオケとヲケという名前は、置く、ヲク(招く)、という言葉から来て、父のオシハノミコの遺体が捨て置かれたこと、雄略没後に飯豊王によって招き入れられたこと、を示しているのだと解釈できるだろう。