『善と悪 倫理学への招待』

大庭健
岩波新書
ISBN4-00-431039-3
倫理の成立する基について考察した本。
なんだかよく分からない感じはあるが、倫理の成立する基について考察した、といえば、確かにそうした本か。
余り良い本だとは思わないが、そういうことを問題にするような本ではなく、読みたいのならばつべこべ言わずこれでしょうがないでしょ、というタイプの本ではあるだろう。だから、倫理の成立する基について考察した本が読みたいのならば読んでみても、という本。
大体のところとしては、人間はすべて、他者との関係性の中で他者からの承認によって成り立っていけるのだから、自分を特別視するような倫理は成り立たない、関係性の中で人を粗略に扱い痛めつけるような行為は悪であり、そのような痛みをこれ以上増やさないようにすることは善いことである、という感じだろうか。
問題点としては、少なくとも余り分かりやすくはないこと、上記の本筋から若干それたぐだぐだとした考察が、専門的には必要なのかもしれないが、私にはその意義が余りよく分からず、しかもその考察のせいか議論が妙に誘導的に感じられること。
序にいうと、上記のような原理は、仮に、良いとして、その原理をどう実際の倫理問題に適応解釈していけば良いのか、私には殆ど分からない(一例だけ記述されてはいるが、その展開はかなりアクロバティックに思える)。
ただ、こういう問題点をあげつらってみてもしょうがないようなタイプの本ではあると思うし、私には意義がよく分からなかったぐだぐだとした考察が楽しいという人向けではあるのかもしれない。
興味があるのなら読んでみても、という本だろう。