解説本

『トポロジカル物質とは何か 最新・物質科学入門』
長谷川修司 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-522267-6
物性物理学のホットな話題であるトポロジカル物質の紹介と、紹介に必要な物性物理学についての入門解説を行った本。
簡単ではないがその分内容は詰まっており、それにチャレンジできるという人なら読んでみても良い本か。
トポロジカル表面電子状態のディラック錐のディラック点では運動量がゼロになりスピンだけが異なる二つの電子のエネルギーが同じになる、つまりゼーマン分裂が起こらずスピン退縮している、トポロジカル超伝導体の端や表面にできるアンドレーエフ束縛状態での電子はマヨラナ粒子とみなせる、パルスのファルシのルシがコクーンでパージ、というようなことが書かれているが(最後のは書かれていない)、それで良いという人向け。
私よりはもうちょっと中級者向け、物性物理学の基礎は一応知っているというくらいの人向けか。
そういうような人にとってはいい本ではないだろうか。
簡単とはいわないが、悪いとはいえない。
これはこれで、というもの。
内容的には、確かにある。
それで良ければ読んでみてもいい本だろう。

以下メモ
原子核に束縛されている電子は一つの軌道にスピンが正反対の二つの電子しか入ることができないが、金属の中の自由電子も、同じエネルギーで同じベクトルを持つ電子は二つしか存在しない。自由電子の中で電子が持っている最大のエネルギーをフェルミエネルギーという。
・絶縁体では、結合性軌道の電子が持つエネルギー帯である価電子バンドと自由電子が持つエネルギー帯である伝導バンドのエネルギー準位が離れている。
フェルミエネルギーは伝導バンドのエネルギーより下にあるため、自由電子となっている電子は存在しないし、価電子バンドにいる電子は伝導バンドに移行して自由電子になって電流が流れることもできない。
・電場の中を電子が動くとき、この電子から見れば、外の電場が動いているので、電磁誘導によってそれに見合った磁場の影響をこの電子は受ける(仮想磁場)。
・磁場がない場合は、スピンの向きが違っても同じ運動量を持っている二つの電子が持つエネルギーは同じだが(スピン退縮)、磁場をかけると、磁場に沿ったスピンのほうが回りやすく、スピンによってエネルギーが違ってきてしまう(ゼーマン分裂)。
・仮想磁場によっても、実際にスピン退縮が解ける。
・絶縁体では価電子バンドのエネルギーは伝導バンドのエネルギーより下だが、仮想磁場によるゼーマン分裂の結果、価電子バンドのエネルギー準位と伝導バンドのエネルギー準位とが逆転してしまうことがある。
このように逆転している絶縁体をトポロジカル絶縁体という。
マヨラナ粒子は粒子と反粒子とが同一の粒子。トポロジカル超伝導体の端や表面には金属的な電子状態ができ、これをアンドレーエフ束縛状態というが、そのような孤立電子は超伝導状態でクーパー対を作っている電子の中では正孔とみなすことができ、電子と正孔は、正孔から電子が飛び出せば生起し正孔に電子が入れば消滅するから、粒子と反粒子である。二つの粒子を入れ替えたとき、波動関数が変わらなかったり符号が変わったりする普通の物質と違い、マヨラナ粒子波動関数が変わる。この量子もつれを使って量子コンピューターを作れるのではないか、という研究が行われている。