90年前の同時代

『クーデターの技術』
クルツィオ・マラパルテ 著/手塚和彰 鈴木純
中公文庫
ISBN978-4-12-206751-6
ロシア革命からヒトラーの台頭に至るまでの、ヨーロッパ諸国におけるクーデターの事例を扱った同時代ルポ集。
一つの歴史的資料としては、歴史的資料。それで良ければ、という本か。
歴史的資料という以上のものは、あまりないと思う。
第一に、クーデターの技術そのものについて、詳細に分析されているわけではない。ただの同時代ルポ。それも、中央電信電話局を占拠すれば首都と外部との通信を遮断できた牧歌的時代のそれではある。
第二に、同時代ルポといえばそうなのだろうが、シュトレーゼマンとかジェルジンスキーとか聞いて、おお、と思える人向き。訳注があるとはいえ、一般的には結構つらい。
ブリュメール十八日のクーデターについても同様の感じなので、必ずしも同時代ルポだから、というわけではないのだろうが。
ブリュメール十八日のクーデターについて予め知っている人でないと、この章は意味が分からないと思う。
つまり全体的に他の章もそんな感じ。
第三に、衒学というか韜晦というか、ある種の欺瞞があることは確かで、例えばポーランドのクーデターについては、その場に居合わせた、という自慢しかほぼ書かれていない。
数か月の投獄を五年間の投獄と書いてしまうような作者の自慢話を、どこまで信用してよいのだろうか。
これらのことから、基本的にあまり良い本であるとは評価できない。
歴史的資料としてならば、というところ。
それで良ければ、という本だろう。