論証不足

『事大主義 日本・沖縄・朝鮮の「自虐と侮蔑」』
室井康成 著
中公新書
ISBN978-4-12-102535-7
事大主義という概念の歴史を追った本。
概念の変遷を見た本としてはいろいろ面白かったが、全体的に論証が気持ち悪く、お薦めするほどではなかった。
論証については、多分だが、予め決めてある流れに沿って置いてあるだけなのではないだろうか。それが決めつけになっていないという保証がないように思える。
私と見解が異なるからそう思えるだけかもしれないから、著者の見解を良しとする人にはいいのかもしれないが。
それで良ければ、というもの。
個人的には、あまり薦められる本ではなかった。

以下メモ。
・事大主義という言葉は、明治期の朝鮮政治家の一部を批判するものとして福沢諭吉あたりで作られた。
・それが、近代化の遅れた自立していない人を批判する用語として、日本人や沖縄県民向けに使われるようになった。
・朝鮮は明から冊封されたときに与えられた国号である。
チュチェ思想は反事大主義という性格のものである。

後はコンピューターが計算してくれる

『はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み』
平山令明 著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-515213-3
量子化学の初歩を紹介した本。
一応入門書ではあるが、有機化学量子力学について多少はかじったことのある人向け。それで良ければ、という本か。
私は量子化学の本は初めてだったので、興味深くは読めた。
やや宣伝くさい面はあるが――量子化学は役に立つとか――、悪い本ではないと思う。
ただし、内容については、後はコンピューターが計算してくれる、という以上のことは、あまりよく分からなかった。
そういうものなのだろうが。
だから特別とはいえないが、入門としてはこんなものなのだろう。
そうしたもので良ければ読んでみても、という本だろう。

以下メモ。
波動方程式を解いて分子の電子軌道を求める。
軌道を見れば、反応しやすい場所などが分かる。
・電子はエネルギーの低いところから順に埋まっていくのが安定であり、通常電子が占めている軌道のうち最もエネルギーの高いもの(HOMO)と電子に占められていない最もエネルギーの低い軌道(LUMO)とのエネルギー差を持った振動数の光子が来ると、電子は光を吸収して軌道を変えるため、分子の色を予想することができる。
(吸収する光の補色になる)
・HOMOとLUMOがフロンティア軌道であり、分子の化学反応を考える上で重要になる。

読者層狭そう

『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』
日本植物病理学会 編著
講談社ブルーバックス
ISBN978-4-06-515216-4
植物と病原体との戦いに関する読み物。
ぶっちゃけていうと、この分野か近い分野を専攻しようとしている大学生くらいならそれなりに面白く読めるだろう、という本か。そうしたもので良ければ、というもの。
一般向けという感じはあんまりない、学会による編著らしいといえばらしい本である。
著者の人が大学生くらいの頃に、という発想はあっても、一般向けにという契機はないだろう。
まあそれで絶対に駄目だということもないわけで。
良い本だとは言わないが、そういうのでも利用していかないとね、ということではある。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ。
・細胞内にある二本鎖RNAはウイルス由来なので、それを壊していく仕組みが真核生物にはある(RNAサイレンシング)。
・イネ科の牧草や芝草に寄生するエピクロエは、食害昆虫に対する忌避成分を分泌したりする。
・種なしブドウに使われる植物ホルモンのジベレリンは、苗がひょろ長く伸びるイネばか苗病を引き起こす糸状菌が作る徒長促成物質として発見された。

思い入れはあるのだろうが

言語学講義 その起源と未来』
加藤重広
ちくま新書
ISBN978-4-480-07209-2
言語学に関していくつかのことが書かれた本。
概説や講義ではなく、著者が言語学に感じている想いをつづったもの。想いをつづったということで、あえて良く言えばエッセイっぽい部分はあるから、合う人には合うかもしれない。言語学に対する著者の問題意識を共有している人とか。そうしたもので良ければ、という本か。
こちとら言語学そのものを知らないのに、それに対する問題意識を共有しろと言われてもね、というところ。
適応範囲は狭いと思う。
ほぼ言語学徒向けか。
あるいは、ソシュールチョムスキーを知っている程度でいいのかもしれないが。
それで良ければ、という本だろう。

火盗読本

『火付盗賊改 鬼と呼ばれた江戸の「特別捜査官」』
高橋義夫
中公新書
ISBN978-4-12-102531-9
火付盗賊改について書かれた読み物。
正確に、ではないが、時代小説ファンに向けて火付盗賊改の実態を探ろうとした本と考えておけば、当たらずといえども遠からず、といったところではないだろうか。そうしたもので良ければ、という本。
これといったテーマや特別な内容はないが、好きな人には、これはこれでというものではないかと思う。
そのほかの人に、特に、というほどのものはない。
そうしたもので良ければ、という本だろう。

やや中途半端か

『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』
谷口義明
光文社新書
ISBN978-4-334-04395-7
ブラックホールに関して書かれた本。
簡便なまとめ、といえばまとめだが、中級者向けにはあまりこれといった内容はなく、初心者向きにはやや説明がおざなりであるような気がする。それでも良ければ、という本か。
何十年前に少しかじったことがあって、知識をアップデートしたい人とか。
まとめといえばまとめなので、合う人には合うのだろう。
ただし、内容は初心者向けにはこんなものだろうと思うが、説明がやや雑なような気はしないでもない。初心者向けにたいした内容がないから、とはいえるかもしれないが。
少なくとも、初心者向けに優しいとか分かりやすいとかいう風には評価できない。
それで良ければ、という本だろう。

以下メモ。
・ガスを大量に含んだ銀河同士が合体すると、多くの大質量星が一気に生まれ、星に温められたダストが赤外線で輝いて超高光度赤外線銀河となる。
大質量星は超新星爆発を起こしてダストを吹き飛ばし、残骸のブラックホールは中心に落ち込んで元あったブラックホールと合体して大きく育ち、銀河はクェーサーとなる。
衛星銀河など、そこまで大きな銀河同士の合体でない場合、セイファート銀河になる。

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『ネット階級社会 GAFAが牛耳る新世界のルール』
アンドリュー・キーン 著/中島由華 訳
ハヤカワ文庫NF
ISBN978-4-15-050536-3
GAFAに代表される一部の勝ち組企業がのさばるインターネットの現状を悲観的に描いた本。
何もかもが悪いほうへ向かっています、ということで、そういうので良ければ、という本か。
二十一世紀のインターネット共産主義はかくあれかし、みたいな感じがして、私にはため息しか出ないが。
そういうもので良ければ、という本だろう。
しかし、YouTubeは広告料の四十五パーセントもピンハネしていると批判されているが、五十五パーセントも払っているのならむしろ払いすぎのような気がするのだが、そうでもないのだろうか。

以下メモ。
googleは結局違法サイトを表示することによって大きな広告収入を得ている。